「アメリカのヴァージン諸島のライフ・エグジット・ファンデーションというところからの寄付らしい。」
「いえ、会長、British Virgin Islandsですからイギリスです、アメリカじゃなく。」
「そういえば、連中そんなこと言ってたな。でもポンドじゃなくて、ドルで送金されて来たんだろ?」「はい。銀行の本店にファンデーション名義でドルの仮口座が開設されているそうです。」
「場所はカリブ海なんだろ?」
「そうなんですが、住所のロードタウンはイギリス領の方だと思われます。調べたらその島も通貨は米ドルだそうです。」
「いぶかしいねェ。で、その金をうちに?」
「はい。縛りがかかってまして、その人物のサインがあっちの商業登記簿に登録されているものと同一であることと、会長の会長印が先方が捕捉しているものと同一であるとコンファームできた時点で、先方が銀行の縛りを解いてうちに送金されるそうです。」
「いや、ますます、いかがわしいねェ。どこで俺の会長印を?」
「それはまァ、こっちの銀行も印影を持ってますから。銀行に照合を一任すればいいだけのことですけど・・・。」
「ま、君はそうしたことには詳しいんだろうがね・・・。実に妙だ。」
本社に呼び出しを受けて陽子は会長室で会長と例のヘッジファンドから派遣されてきた常務、グリーン車ではなくヘリコプターで料理屋にゆく氏家常務の会話を聴いている。異次元の話で、わかる言葉で話してもらいたい、陽子の次元に話を戻してもらって、おにぎり君の話に早くケリをつけて帰りたいと思っている。おにぎり君の採用が他店舗への風評被害に繋がるという異論が常務にあり、頼りにしてきた会長もそれに同調して難色を示すなら、机上に叩きつける「辞表」は胸の内ポケットに準備してある。店を投げ出すつもりはない。自分の後継は決めてある。その人事権は陽子にある。というか、次期後継者を決めなければ退職は保留されることになっている。辞表を提出した足で、同期の人事部長のところへ行き、万智ではなく、十子を推すことに決心は固めてあった。
「会長。この子は本当に更生しています。施設送致の時にもお世話になった秩父署の署長も成人と同時に本人の希望通り警察官への道の後ろ盾になって下さるとまで仰ってくれています。地元出身の子ですし、そうした青少年の社会復帰に貢献することは、地元のお客様の受けも必ず良いはずです。当時の被害者の保護者は、今回はある意味、典型的な誹謗中傷、ネットやSNSも悪用して信用毀損や威力業務妨害、名誉棄損をしようとしている節があります。まだ起きてもいないことへのいいがかりです。」
常務が会長との会話を中断し、陽子を遮る。
「陽子支配人、だから、起きてからでは遅い、起きないようにするのが肝要なのではないですか?」
マトリックスばかり見て、人を見ない、ヘッジファンドか何か知らないが、居心地のいい椅子に深々と座って、ExcelやPCだけ弄っているお宅に汚いトイレ掃除や除染清掃が一体いざとなったら満足にできるんですかね、と鼻先まで言葉が出かかった。誰のおかげでお宅は磨きあがった無菌トイレに座ってらっしゃるんですかね。お宅には底辺の人間でも、その時給を拾い集めている人間がいなくなったら、ご自分でやるんですよォ?うちの連中は一晩中座ることだってしないんですよ?人が全てじゃァないですか、まだ。AIに便座を裏返せますかねえ?地震訓練しましたけどね、お宅のマニュアル通りにね。福島第一原発の電気が切れた中で、一体誰がお宅のマニュアル通り動くんでしょうかねェ。命を懸けた、やる気のある人間だけだったじゃないんですかねェ。そのヒトを私はずっと見て一緒に働いてきてるんですがねェ。やる気のある一生懸命な人間を粗末にしちゃァいけませんよ・・・と。
「私は運がよかったんだと思います。」
常務が怪訝そうに陽子の上気した顔を見つめる。まず、攻撃的な反論を予期していたので、意外だった。自分としてはこの程度のことで法務部を投入して対応してきたこのホテルの浪花節をこの機会に圧殺しようと考えていた。陽子の優良店でも顧客からの小クレーム対応は本社がもう受けないらしいとなれば、些細なことは本社にこれからは上げられないという見せしめになり、少しでも問題のある社員の採用はそれでストップするだろう。人の数だけ問題は増える。少数精鋭の質の高い人事を今後は固めてゆく。おにぎり君が更生していようがいまいが、一ケーススタディーとしてみせしめとする。以上。「運がよかった?」何のことか?
「会長は充分ご存知ですけど、私、地元では鳴らしたスケバンだったんですよ。体も大きかったし、強かったし、かなりオマセちゃんでしたし。」
「(軽い笑い)なるほど、何となく判るような気もします。」
「でしょう?」
「はい。(笑い続ける)いや、失礼・・・。」
二人のやり取りには入り込まず、足を組みながら老眼鏡をかけ直して手元の上段下段で英文と和文に分かれたA4のレジュメに目を通しながら会長も横顔では貰い笑いをしている。
「補導歴5回。けがを負わせたことも何回かあって。でも訴えられることも、施設に送られることもなく助かりました。高校でバレーに出会って、私は監督に救われました。でもオリンピックで結局試合には出られませんでしたが、とにかくバレーばかりやってて・・・。」
「伺ってますよ、強化選手でいらしたって。だからバイタリティーが半端じゃないと、会長も仰ってますよ。」
「でも就職口はありませんでした。で、すぐ結婚。」
「へェ、そうだったんですか。永久就職の道を選ばれた?」
「亭主は元高校のバレー部の監督。亡くなりました。三人の息子を残して。」
「それは大変でしたね。」
「勤め先なくて大変でした。」
「それでうちに来られたわけですな?」
「とんでもない。」
「え?」
「しばらくは小さなクラブで働いていたんです。」
「クラブって、あの夜の?」
「そうですよ。そのクラブ。」
「・・・。」
「ママさんが病気がちで、小さいところでしたから私がほぼ任されていて。」
「・・・。」
「会長さんが部下の方々と時々来られて、お誘いを戴いたんですよ?同じ水商売だよって。お客さんも従業員も水のように来ては流れる人を扱う同じ商売だよって。こうして自分がここに時々来るのはなぜだと思うって聞かれたんです。同じウイスキーが隣の店にもあるのにって。色仕掛けもまったくなのにねって笑われるんですよ。」
常務が会長席の方を振り向いてお愛想のように薄ら笑いで尋ねる。
「会長もお若かったんでしょうが・・・。お目当てでも?」
レジュメから目を離して会長は居住まいを少し正して老眼鏡をデスクに置く。にこりともしない。「もう昔のことで忘れた。でもな、一生懸命だったな。そこかな。」
常務の顔からも薄ら笑いは消えた。浮いた話ではなさそうなことを悟った。会長が会社創世記の社長の頃、目的をもってバーやサロン、クラブに出入りしていたことは生え抜きの古い社員たちから小耳にはさんでいた。どの店でも必ず一回だけ初っ端にMY WAYを会長は歌う。聞かされて困惑したと。一晩で3回聞かされることもあったと。普通閉店間際の時間で常連なら選曲しても店全体がしらけることもないであろう曲なのに、夜浅い時間に行ってすぐ歌うから店も迷惑だったんじゃなかろうかと。会長はそんな時のママさん連中の対応を何か伺っていた気がするとも。同じ店に二回目に行って、『社長さん、また初めからMY WAY?他の曲にまずはなさらない?』とママさんが言った途端、席を立って二度とその店には寄らないというケースがあったとも聞く。
「常務、あのおにぎり君なんですけど。」
「ん?え?はい。」
「一生懸命なんです。」
「とはいえ、それとこれとはちょっと話が違いますよね・・・。」
ここで畳みかけるしかない、そう陽子は決めていた。学力やキャリアに遜色は明らかにあるが、ことこのホテルでの人事、この川の水が流れ過ぎて枯渇しないように、川の水に沈まないように人と関わってきた実績への自負は卑下する必要はない。
「会長ほどではありませんが、私にも人を見る目があると信じて頂けませんか?」
会長席を立って会長が陽子の向かい側、常務の横に座る。二人の顔を交互に見比べてから腕組を解き、解いた両腕をそのまま大きく広げて見せる。ブレザーの前が広がる。会長はその動作を二、三回繰り返し、陽子に同じ仕草をしてみろという具合に顎で促している。意味がわからないまま、陽子も腕組をしては両腕を広げてみる。なんでしょう?真似てはみますが、これではカラスが羽をばたつかせているみたいじゃないですか?
「陽子君、君少し太ったか?」
「え?いや、確かに少しは・・・。」
「スーツが少しきつめかもな。」
「そ、そうでしょうか・・・。」
「胸の内ポケットがそれとも浅いのかね?」
「はァ?」
「中の白い封筒が飛び出して落ちそうだぞ?」
「え⁈あっ!(慌てて封筒を押し込む)」
会長が窓の方を向いてクスリと笑う。
「一生懸命は変わらないな。おにぎりは俺が食ってやる。まかせなさい。しかしだ。人を見る目はまだまだだぞ。君も常務も二人とも俺の目利きだからな。今日来てもらったのはおにぎりの件ではない。そうだったな、常務。」
陽子のレトリックに填まったことに常務は既にそれほど固執している感はなかった。切り替えは素早くできるように、どうやらアポステリオリな習熟ができている。どちらかというと陽子の方がやりとりからまだ脱し切れていない。というか、辞表を見破られていたのが一体いつからなのが気になり、ばつが悪かった。ジャケットの前ボタンを一つかけ直す。
「陽子支配人、話は変わりますが、外国人の従業員は何名抱えてます?」
お宅はもう何でも調べはついているでしょうに、勤務表から人事評定から個人情報の全て閲覧済みなのではないですか、と陽子は目で伝えている。この男とは刺し違えてもいいとまで思っていたからそうそう休戦に移行できない。会長の目利きといっても、明らかにどっちか別の方の眼球だったに違いない。
「まァ、私が拝見した限り昨日時点で、フロントに日本に帰化した中国人一名、パントリーのバイトに一名パキスタン人、タボさんのメイクの方に二名のベトナム人の正規スタッフで計4名でしたが、相違ないですか?」
陽子は一応恐れ入りました的に小首を深々と下ろす。
「他には最近臨時または正規で新規中途採用を決めているスタッフとかありませんか?」
「ありません。」
「なるほど。(横の会長の方に向き直って)やっぱり、かなり変ですね。長瀞店の関係者と明記されているのに、その名前のスタッフは長瀞にはいないわけですから。」
「そうだな。だいたいこのミス・フォン・ブランなんとかって、これ、何って読むんだか見当もつかんが、ミスだから未婚女性らしいということはわかる。だが一体ナニジンの名前なんだ?」
「調べたところ、ポーランドや北ドイツに散見される苗字で、中世の貴族のvon Branchitschの末裔が名乗っている姓らしいですけど・・・。会長、相手にしない方が。きな臭いですよ、例えば当社の口座を知りたいとか、場合によってマネーロンダリングの新手口とか。バージン諸島は租税回避の温床で、最近も世界のトップや日本の実業家の名ばかりストリート・カンパニーの所有者名簿をリヒテンシュタインの銀行員がドイツの税務当局に売って公になったとか騒ぎになっていましたし。洒落にならない可能性がありますって。妙にその後突然世の話題から消滅してますけどね。消されたというか・・・。」
会長が先刻読んでいた英文と和文のレジュメと他の関係書類を常務に手渡す。
「実はさっきM銀行の副頭取の紹介で、相手方の日本サイドの弁護士二人が来てね。君、片っ方は名門中の名門のH国際法律事務所の主席パートナーだったんだよ。」
「えっ?それは確かに凄いですね。」
「まずライフ・エグジット・ファンデーションは、スイスで何やら安楽死を基本的人権として明文化する活動をしていた著名な財団で、安楽死を選んだ方々の遺産や財団の趣旨に賛同していた故人の預託財産を遺言に基づいて、様々な世界的慈善事業者に寄付として分配しているらしい。個人にではなく団体への寄付だけに特化した半公益の特殊信託で遺族に財産を残すための相続税回避を目的とした遺族・家族信託とは明白に違うと言っていた。もっとも今はこの財団自体は活動を停止していて、この島に登記簿上のアドレスを残しているだけということだった。」
常務が天井を仰いでいる。実に不満げに珍しく判り易く疑念を露わにして、上半身を左右に大きく揺らしている。恐らく、おにぎり君の話を電話で陽子がした時も揺れていたに違いない。確かに、YESマンではない。
「要するにもう実体もない、タックスヘブンのペーパーカンパニーってことですよね。実効税率はゼロ、譲渡所得税も、贈与税も、相続税もない島ですよ?そんな都合のいい島は、犯罪性の資産や脱税の温床になるに決まってるじゃないですか。」
「確かにそうらしいな。この財団も当初は納税義務の発生する居住国外で派生した委託者の生前の国外財産の贈与税や相続税を節税する目的で設立されたに違いはないと言っていた。」
「でしょうねェ・・・。」
常務は右掌を少し挙げて、書類の先を読ませてほしいという仕草をする。
「財団に名を連ねているこの理事たちですが、凄い数ですね。私が知っている名前もありますよ。あれ、これ(指でリストをなぞり始める)、この人はフランスの前の・・・。ですよね?」
会長が横からのぞき込んで頷く。
「彼も退任後は本職の弁護士稼業に戻ったんだろう。各国のその弁護士の理事たちが依頼人から委託された個別の資産をこのライフ・エグジット・ファンデーションにまず入れてからサブ・アカウントに分化して、それぞれのPOAを設けて別々に管理するからその数になるらしい。このライフ・エグジット・ファンデーションってのは信託財産の管理会社で、実際の安楽死をビジネスにして活動している協会は別で、スイスに何社か実在しているらしい。どうもそっちはどちらかというと慈善団体的な活動母体で営利団体とは見られていないと聞いた。」
「まァ、言われてみればそうそうたるメンバーです。」
「まず麻薬等の金融犯罪とは基本的に線引きができている、名も歴史もある財団と捉えて問題はないとH国際法律事務所としても判断しているから依頼を受諾したという説明だったね。どうやら今回が初めての取引ではないようだ。今回の寄付の金額は小さい方だと言っていたよ、大先生が。」
「(半分笑いながら読みあげる)依頼人が当財団理事会が承諾に至らない任意の団体への寄付を要望することはできない。財団の寄付先が社会正義、実体経済の維持発展に貢献する健全な団体、事業主であること。これ、説得力がありますね。」
「ん?どうしてかな?」
「このパラグラフはおそらく、仮に万が一、麻薬資金のマネーロンダリングをしようと、黒を白にしようと目論んだとしても、健全な「真っ白」にしか財団は寄付を許可しないので、麻薬連中の表のおカネにはなりませんよ、と言っているんでしょうね。社会正義かどうかをこのそうそうたる理事たちが判断するなら、かなり信頼度は高いかもしれませんね。」
「なるほど。(膝を軽くたたく)黒い資金の安楽死ってことになるな。」
蚊帳の外で陽子は話の糸口がまるで読めない。
「あのう、安楽死って、うちの店と何の関係があるんでしょうか?だいたい、安楽死なんか違法行為ですよね?ぶっそうな・・・。何のことだか、私にはさっぱり・・・。」
「いや、違法じゃない国が結構あるんですよ。確かスイスなんか年間千人以上安楽死で合法的に亡くなっている。」
「え‼千人⁈」
「この前、NHKの特集で言ってましたね。私も驚いたんで覚えてますよ。死ぬ権利も基本的人権だそうですよ、国によってはですが。」
「いやー、ダメでしょう、そんなこと・・・。」
会長も後頭部で両手を組んだまま常務と一緒に天井を仰ぎ始める。
「常務、やっぱり陽子君は元気だから、考えも及ばないんだろうねェ?」
「はあ・・・。」
「君も死にたいなんて思わないもんな?」
常務も会長に同調して後頭部に両手を回して天井に視線を這わして眼球だけを動かしている。
「バブルが弾けたときですかね。」
「ほう。」
「経営していた投資顧問が潰れて、練炭を愛車に持ち込みましたね。女房が追って来たんで急いでエンジン掛けて。多摩川の土手で。」
「ほお。それで?」
「いやァ、火が付かないんですよ、車のシガーソケットのライターじゃ・・・」
「そりゃ、確かにきっと無理だな。」
「何バカなことをお二人で。冗談でも聞きたくありませんから。」
「その時思いましたね。ニンゲンどうせ死ぬしなって。」
「君な、どうせ死ぬと思ったら、生まれた時から何もできなくなる。だろ?生きてるとき、俺は何かしてるぞって実感できることが肝心なんだよ。泣いたり、笑ったり。」
「そうですよね。どうせ死ぬんだから、自分で死ぬ努力をする面倒も馬鹿らしいかと。」
「練炭に火が付かない。」
「はい。」
「よかったな。だがな、病気で苦しい、回復の見込みはない、家族にカネの面倒を掛ける、だから死にたいという患者の安楽死はアリかもな。そういう数字だろ?さっきの千人の大半は?」
「そうだったと思いますが。」
「要は、もはやこれまでと思った時、誰も墓にカネを持って行けない。せっかくの果実をどうするか考えるだろう。中には相続する後継がいない奴もいるわな。問題は、何で白羽の矢が日本のうちに立ったのかってことだよ。この財団を信じるとしてだがね。」
常務は書類に没頭し始めている。会長が陽子に小さなメモ用紙を差し出す。
【Ms. M. von Branchitsch】
「陽子君には従業員にこの名前の人物が現れたら君に報告するように徹底してほしい。ナニジンかわからないが、仮に働きたいと言ってきたら、とにかく仮採用で押さえなさい。コロナで業績が苦しいのは知っての通りで、寄付が本当なら受けるかもしれないが、この女性が何者か、まず確かめたい。必ず掴もう、誰なのか。」
「はい。でも、よく事情が実はわからないのですが、ご説明頂けますか?」
常務が陽子に契約書の最後のページをめくって提示する。英文だが、三か所下線が引いてあり、下線の下に予め、一か所は会長の名前、もう一か所はM. von Branchitsch、少し離れたところに左記署名者の同一性の確認の証明者としてH国際法律事務所の代表者の名前がアルファベットで印字されていた。下線の上にサインを記入する準備がされた契約書だった。
「このM. von BranchitschがH国際法律事務所に行って署名すると、この財団から寄附金が送金される。この人物が誰かがこっちには全く分からないんですよ。知らされているのは、その人物がすでに長瀞店の関係者だと財団から明記されてきているということ。弁護士事務所も実際来るまで知らないらしい。ただ、本人はこのことを財団から知らされているということですけどね。で、契約書の翻訳文によると、すべての署名の同一性をBritish Virgin Islandsの中央商業登記簿審査官が照合した時点で、あなたの長瀞店の口座に『同店のみに限定したファシリティ・施設整備等寄附金として』という制限条項付でM銀行から即刻送金が履行される。寄附金が財団の指示通りに長瀞店のファシリティに投下されたことを証明する資金収支計算書の施設整備等寄附金収入の計上書と施工工事費等の領収書のオリジナルコピーを添付して全額の使途をH国際法律事務所に提出すること、とあります。」
「ということは、うちの店に寄付ですか?これ、青天の霹靂ですね!わあ、ほんとなら、歓喜感激です、会長、私!」
「本当ならね。どうだかね・・・。」
「で、寄付の額って、いくらぐらいなんですか?」
常務が書類を纏め、立ててから軽く机上で縁を合わせるため机に当てて整え、一呼吸を置いて答える。
「700万ドルだから約9億円ですね。」
「・・・。」