警察から連絡が入り、メイクのヘッドのタボが東京の京浜島海上公園・京急バス停のベンチで頭部から血を流して倒れているのが今朝発見されて、最寄りの救急病院に搬送されたことが知らされ、副支配人の万智が病院に向かっていた。一度たりとも連絡なしで遅刻したことすらないタボなので、心配した副支配人の万智が携帯が繋がらないと言って騒いでいた。秩父署に届け出たことで、ようやく身元のマッチングができたらしい。所持品には沢山の携帯番号がしるされたメモ帳があったらしいが、大半がプリペイドで警察からの連絡だと知ると切られてしまったらしい。圭太がタボの写真を送って、本人確認ができた由。
「タボさんの具合は?」
「警察は命に別状はないって言ってる。」
おにぎり君が珍しく口を挟んできた。落ち着きなく足踏みが止まらない。
「ニュースでもよく命に別状はないって言ってますけど、両足折ってても、頭蓋骨にひびが入ってても、今死んでないってだけで、まるで大したことないって感じじゃないですか。頭から血を流していたって聞きましたけど、タボさん⁉」
イグと圭太、ウルフもバックヤードに詰めていた。イグも苛立ちを隠せない。
「日本のニュースなんてさ、真実を早めに伝えるつもりなんてないっすよね?ちまいことは大げさに伝えて、大きなことは事なかれ主義。雪が2㎝降ったら大騒ぎして、プーチンがウクライナに軍事侵攻するなんて、誰も言わなかったし。タボさん、やばいっすよ、きっと。なにがあったんすか、一体?」
支配人席で取った電話を置いて、陽子が皆を手招きする。
「どうやらね、タボちゃん、休みには羽田の飛行機をいつも見に行ってたみたいなの。京浜島の海上公園から発着便を見てるタボちゃんを近くの工場の人たちよく見かけたらしいのよ。工場の日雇いにバス停で声かけて、メイクの臨時のタボ・フォースも募ってたらしい。一緒に公園で飛行機を見てた人、何人もいたらしいの。」
ウルフは泣き声になっている。
「きっと、日航機の事故で亡くなったご主人やお子さんを待ってたんだ・・・。」
「そうかもね・・・。」
「で、何で頭から血が?」
「タボちゃんがバス停のベンチに腰かけているところに男が何か話しかけていて、しばらくしたら、缶ビールの入った買い物袋を振り回してその男に何度も殴られてるところが監視カメラに映ってたらしい。万智がそのビデオを見たって。」
「それで、そいつは誰?酔っ払い?浮浪者かなんか?」
「万智が誰かに似ているって・・・。一応、警察には言ったらしいけど。」
「誰かって、誰なんですか⁈」
おにぎり君が語気を荒げる。十子がフロントから村岡署長と警官を通して事務室に連れて入ってきていた。署長が全員に目礼を送る。
「タボさんはあまり良くない。意識がまだ戻らないらしいです。容疑者を今さっき秩父市内で確保しました。」
おにぎり君が署長に詰め寄る。
「秩父市内?一体、どいつです⁈タボさんは俺のお袋同然ですよ⁉」
署長がおにぎり君を見詰め返し、深く頷く。
「判ってる。十分、判ってる。だから署長の私がこうして来ているんだ。じきにどのみちあきらかになることだからな。犯人は、昔お前が殴った同級生だ・・・。」
「な、何だって⁉あの野郎・・・!」
「もう確保してある、まず落ち着いてくれ。奴はここ数年、精神科医に掛かっている。奇行も繰り返していて、届け出もある。いいか、奴の父親は弁護士で、心神喪失状態での重大他害行為という落ちも大いにあり得る。だからこそ、お前には絶対にバカな動きをしてほしくない。私たちに任せて、タボさんの介抱だけに執心してくれ。お前がきちんと警察官になることだけが、タボさんの望みなんだからな!ここがお前のこらえどころ、警察官にふさわしいかどうかが試されていると肝に銘じてくれ!わかったな?」
圭太が突然椅子を蹴飛ばして、椅子が複合機にぶつかって大きな音を立てる。そんな行動を取ったことは今までになかった。圭太の目が赤く充血している。
「僕はとにかくあの父親が許せない。誹謗中傷、言い掛かりにチクり、六法全書をさかさまに読む似非弁護士じゃないですか!自分の息子すらまともに育てられないじゃないですか!」
陽子が複合機から椅子を離して、元に戻す。
「とにかく、タボちゃんの容態を診に明日私も病院に行ってくる。まずそれが先決。あとは署長さんたちにお任せしましょう。みんな、心配だろうけど、頑張って仕事に戻って頂戴。」
十子がおにぎり君のそばに寄る。
「どのみちこれでもうあの親子はおしまい。おにぎり君への嫌がらせも、ホテルへの中傷もできないわね。タボさんがみんなをまた救ってくれた。タボさんの仕事、元気になるまで、おにぎり君がかわりにやらないとね⁈大変よ、しばらくは。タボさんの代わりにステルス・コロナをやっつけて!」
署長がおにぎり君の正面に立ち、自分の紺色線の入った警察官の制帽を項垂れているおにぎり君の頭に乗せる。
「お前、あたまでけェんだな。明日まで貸してやる。だいじょうぶ。タボさん、がんばるさ。」
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