ロコ・終章 ロコ・終章 一 行き合いの空で質量のある深い白雲の塊の縁が秋風に引かれ、輪郭の端から無数の白い筋となって四方に延びてゆく。この秩父の空を見上げることがまたあるとはさとしは思っていなかった。熊谷駅前でホテルからの迎車がさとしを待機していた。ロンドンタクシーの... 2024.12.08 ロコ・終章
ロコ・終章 ロコ・終章 二 警察から連絡が入り、メイクのヘッドのタボが東京の京浜島海上公園・京急バス停のベンチで頭部から血を流して倒れているのが今朝発見されて、最寄りの救急病院に搬送されたことが知らされ、副支配人の万智が病院に向かっていた。一度たりとも連絡なしで遅刻し... 2024.12.08 ロコ・終章
ロコ・終章 ロコ・終章 三 倉木病院の院長の診察室から車椅子を押して十子が出てくる。車椅子にはタボが座っている。首が曲がっていて、正面が向けない。下半身に後遺症が残ったままで、外傷性くも膜下出血が原因で二級一号の中等度の対麻痺の診断だった。仕事が居場所だったタボの日常... 2024.12.08 ロコ・終章
ロコ・終章 ロコ・終章 四 秩父夜祭 コロナが下火となり再開された秩父夜祭は冷たい秩父下ろしの烈風が吹き荒ぶ晩となった。二種類の曳山の、文字通り移動式の大掛かりな回転舞台の役割も兼ねた「屋台」と太鼓を打ち鳴らしながら曳かれる「笠鉾」の提灯が激しく揺れている。まさに今一台の笠鉾が... 2024.12.08 ロコ・終章
ロコ・終章 ロコ・終章 五 サイレンを鳴らして村岡たちのパトカーがロコ村に到着する。あたり一面にタール臭とアルデヒドやトルエンの火災臭が充満している。村岡はその異臭の中に、微かに甘い香りを嗅ぎ取る。同じ香気を村岡は過去に二度、やはり冷たい風の吹く真冬の火災現場で感じた... 2024.12.08 ロコ・終章
ロコ・終章 ロコ・終章 六 (後日付) 三峯神社の拝殿の正面の欄干にタボの車椅子が下に集まった若い世代の招待客に背を向けている。参拝客も混じっている。タボは手にブーケを持っている。「いいかい、みんな?ウルフがさ、アタシにやれって言うんだよ。投げるよ⁈」 喚声が上がり、タボが投げた... 2024.12.08 ロコ・終章